東京藝術大学 東京藝術大学入試情報サイト SDGs 共創の場 球探足球比分 東京藝大クラウドファンディング 藝大レーベル / GEIDAI LABEL supported by Warner Music Japan グローバル 藝大フレンズ 早期教育 東京藝術大学ジュニア?アカデミ
藝大リレーコラム - 第九十二回 牛島大悟「XRと中国人留学生史 ― 過去と未来の往還」

連続コラム:藝大リレーコラム

連続コラム:藝大リレーコラム

第九十二回 牛島大悟「XRと中国人留学生史 ― 過去と未来の往還」

今年度から先端芸術表現科で准教授として新たに着任しました。新しい出会いや学びの中で、あらためて今考えているふたつのことを自己紹介を兼ねてお話します。?

ひとつは、授業で取り組んでいるXRの試みです。
XR(Extended Reality)とは、現実と仮想を行き来しながら新たな表現を探る技術の総称です。私はその中でも、学生と共にVRゴーグルを装着し、仮想空間に線や形を描き込む演習を続けています。

そこでは、誰かが描いた線に別の誰かが次々と筆を重ね、やがて空間全体が呼吸するように色彩や造形が広がっていきます。現実のキャンバスでは起こりえない「同時に空間を描く」体験がそこにあります。たとえば、ある学生が空中に大胆に色面を広げると、呼応するようにもう一人の学生が繊細な線を重ねていく。

両者の線や立体が交わる瞬間、思いもよらない形が現れます。私はこの重なりの中に、これまでのメディアでは生み出せなかった新しい可能性を感じます。それは、従来のメディアが隔ててきた距離を越え、他者と同じ空間を共有しながら初めて立ち上がる創造の感覚です。?

写真:2025年8月東京藝術大学と中国人留学生?亜雅音楽会から現代まで? 音楽会風景

 

もうひとつは、私が長年取り組んでいる「東京藝術大学と中国人留学生」に関する研究です。藝大の前身?東京美術学校と東京音楽学校には、明治期から多くの中国人留学生が学びに来ていました。当時の東京は西洋文化への窓口として、多くの若者が夢を抱いて訪れた場所でした。

彼らは帰国後、中国の美術?音楽教育や文化の近代化に影響を与え、大きな役割を果たします。たとえば、西洋画科にて岡田三郎助、藤島武二、和田英作に学んだ胡根天(フ?ゲンティアン)は、東京美術学校での学びを経て、30歳で中国初期の公立美術学校?広州市市立美術学校の創設に関わり、中国南部における美術教育の基盤を築きました。

様々な地から集まり、師や仲間と出会い学んでいた留学生たち。その一人ひとりの足跡に目を向けると、芸術を介して人から人へと受け継がれ、発展してきた個々の力が感じられます。私は中国各地に足を運び、資料調査や研究者との交流を重ねる中で、藝大と中国を往来して交わり合い、地層のように積み上げられ、重なり合いながら築かれてきた長い歴史の重みを実感しています。

こうした流れはやがて中国を越え、東アジア全体の芸術教育や文化交流にも影響を与えていきます。藝大で交わされた学びが海を越え、制度や文化のかたちへと変わっていったことは、芸術の力を鮮やかに示しています。先人たちに敬意を表し、その意義を丁寧に掘り下げ、アーカイブや展覧会、音楽会というかたちで現代に可視化していくこと。それは、藝大が培ってきた多文化共生の歴史を未来へとつなぐ試みだと考えています。

学生と共にXR空間に未来を描き、明治期からの中国人留学生の歩みをたどりながら、その往復の中で、芸術における『現在地』を探り続けていきたいと思います。

写真(トップ):先端芸術表現科の授業 IMA演習


【プロフィール】

牛島大悟
東京藝術大学 美術学部先端芸術表現科准教授 1979年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。2004-2005年ドイツ?HFGカールスルーエ造形大学(Hochschule für Gestaltung Karlsruhe)留学。2008年文化庁新進芸術家海外研修制度にて中国滞在。2008-2011年北京電影学院新媒体芸術科研究員。2011-2014年中国美術学院インターメディアアート科講師。その後、先端芸術表現科助手?非常勤講師を経て、芸術情報センター(AMC)助教。現在、先端芸術表現科准教授。